Q.相続人の一人に遺産を全部渡すとの遺言が出てきました。相続人として、最低限の保障は無いのでしょうか?(遺留分減殺請求権)


A.本来、遺産は被相続人の財産ですから、被相続人が誰に相続させるか、又は、第三者に遺贈するかを自由に決められるはずです。しかし、同時に相続には、遺産の形成に対する相続人の貢献の精算や遺族の生活保障という側面もあります。そこで、法は遺留分という制度を定め、一定範囲の相続人の権利を遺留分の範囲で保護しています。もっとも、遺留分を侵害する行為が直ちに無効とされるわけではなく、遺留分を侵害された側が、一定期間内に自身の権利主張をしなければなりません。

 

①遺留分が保護される相続人の範囲

被相続人の配偶者、子、直系尊属、子の代襲相続人も被代襲者である子と同じ遺留分をもちます(相続人の範囲についてQ5参照。)。一方、兄弟姉妹は遺留分はありません。相続欠格・廃除(Q3参照)、相続放棄(Q2参照)により相続権を失った場合も遺留分はありません。相続欠格、廃除の場合は、代襲相続が発生するため、これらのものの直系卑属には遺留分はあります。

 

②遺留分の割合                    

昭和56年1月1日以降に発生した相続に関し

 ア 直系尊属のみが相続人の場合・・・・・被相続人の財産の3分の1       

 イ それ以外の場合・・・・・・・・・・・被相続人の財産の2分の1

 

相続人が複数いる場合は、上記割合に、各相続人の法定相続分を乗じた割合が、個別的な遺留分の割合となります。例えば、妻(法定相続分2分の1)、子二人(同各4分の1)がいる場合、個別的な遺留分の割合は、妻4分の1(2分の1×2分の1)、子二人各8分の1(2分の1×4分の1)となります。

 

③遺留分算定の基礎となる財産の額

遺留分の額を計算するもとになる財産は、被相続人が死亡時に有していた財産に限られません。相続開始時に被相続人が有していたプラスの財産の価額に、被相続人が贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して計算します。

遺留分算定の基礎となる財産額=被相続人が相続開始時に有していたプラス財産の価額)+(贈与財産の価額※)-(相続債務の額)

※贈与財産は、特別受益(Q10参照)としての贈与を除くと、相続開始前1年間にされた贈与、又は、遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与に限られます。

 

④遺留分の額

上記③の財産の額に、上記②の個別的な遺留分の割合を乗じた金額となります。

 

⑤遺留分侵害の額

以下の計算となります。=上記④の遺留分の額-(遺留分権利者が相続で取得した財産額-遺留分権利者が相続によって負担すべき相続債務額)-(遺留分権利者の特別受益額+遺留分権利者が受けた遺贈額)

 

⑥遺留分減殺請求権の期間制限

遺留分を侵害する行為は、直ちに無効になることはありません。遺留分の減殺を請求して初めて効果が発生します。遺留分減殺の請求は、減殺すべき贈与等を知った時から1年以内に行わないと時効によって消滅します。相続が開始したときから10年を経過したときも同様です。遺留分減殺の請求は、期間内に裁判を起こす必要までは有りませんが、期間内に請求したことを明確にするために内容証明郵便にて行うことが相当です。現実に請求する場合には、弁護士等、専門家にご相談ください。