Q.遺産の範囲は?生命保険金や死亡退職金は遺産に含まれる?


A.相続が開始すると、被相続人が有した一切の権利義務は、原則として相続の対象となります。

一切の権利義務とは、個別の現金、動産や不動産の所有権、預金や他の債権といったプラスの財産と、被相続人の負債、債務に加え、契約当事者の地位(借家契約の借主、貸主の地位等)も含まれます。平たく言うと、被相続人が生前に有していた法律上の状態がスライドして移ってくるということになります。もっとも、例外として、相続の対象とならない権利義務もあります。代表的なものを以下に説明します。

 

①一身専属権

一身専属権とは、その人だけに帰属して行使することを予定する権利義務のことです。例えば、雇用契約の従業員たる地位は、その人の能力に着目して契約しており、従業員が死亡したらその子が引き継いでいくようなものではありません。こういった一身専属権とされるものは相続の対象とはなりません。具体例としては、代理権、使用貸借契約における貸主の地位、雇用契約上の地位、民法上の組合員の地位、扶養請求権(但し、具体化する前のもの)、生活保護受給権等があります。

 

②祭祀財産、遺骨

祭祀財産とは、仏壇、仏具、お墓等の御先祖をお祭りするための財産です。祭祀財産は、法定相続分によって分割されることはなく、慣習に従って、先祖をお祭りする人が継承します。被相続人が指定することもできます。ご遺骨も祭祀財産と同様の扱いとなります。

 

③葬儀費用、香典

葬儀費用は、本来は喪主の費用であり、当然に遺産から支出されるものではありません。もっとも、相続人全員が合意した場合には遺産から支出することもできます。また、香典は、喪主に対する贈与であり、他の相続人が分配を要求できるものではありません。香典返しは、喪主の負担です。香典、香典返しについても、全相続人が合意した場合には、異なった取扱も可能です。

 

④生命保険金請求権

生命保険金は、被相続人の死亡によって発生するものなので、遺産に含まれると思われがちです。しかし、判例上、保険金受取人を具体的に指定した場合も、「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」と抽象的に指定した場合も、原則として相続財産に含まれないとされます。但し、相続税法上は課税対象であり、受取人が相続人の場合には控除もあるものの、保険金の額によっては課税されることもあります。また、相続財産に含まれない場合は、相続放棄を行っても取得できますが、相続税の課税額は多くなる場合があります。税務は当事務所では扱っていませんので、詳細は最寄りの税理士にご確認ください。

 

⑤死亡退職金

死亡退職金の場合は、一律に遺産に含まれるか否かは決まりません。退職金支給規程などを確認し、死亡の場合の受給権者の定めが民法の定める相続のルールと異なるような場合には遺産であることが否定されます。相続財産に含まれない場合であっても、相続税法上は課税対象であり、生命保険金と同様の控除があるものの、金額によっては課税されることもあります。また、相続財産に含まれない場合は、相続放棄を行っても取得できますが、相続税の課税額は多くなる場合があることも生命保険金と同様です。

 

⑥保証債務 

被相続人が生前負担していた債務は、法定相続分の割合に従って分割して相続されることが原則ですが、以下の種類の保証債務は相続されません。

 ア)身元保証・・・従業員が会社に損害を与えた時には、本人に代わって賠償するとの約束です。

 イ)信用保証・・・継続的な取引について将来負担することがあるべき債務を、限度額と期間の定めなく保証したような場合です。