Q.相続の単純承認、限定承認、相続放棄とはどういうことですか?


A.相続する権利を有しているからといって、相続することを強制されることはありません。

相続人は、①単純承認、②限定承認、③相続放棄のいずれかを選ぶことができます。但し、限定承認と相続放棄は、④熟慮期間内に手続きを行う必要があります。

 

①単純承認

通常の相続です。被相続人の財産も負債も全て引き継ぎます。相続人が熟慮期間内に限定承認や相続放棄の手続きを取らなかった場合や、相続人が被相続人の遺産の一部を処分したり隠匿した場合も、法律上単純承認したとみなされます。

 

②限定承認

限定承認というのは、簡単に説明すると、相続で得た財産の限度で、負債や遺贈の弁済を行うことを条件として相続することです。負債等が財産より少ない場合は、その差額を取得できますし、逆の場合でも自分の固有財産からは弁済する義務を負いません。このように説明すると、大変便利な制度に見えますが、ほとんど利用されていません。それは、限定承認を行うには、相続人全員が共同して行う必要があり、さらに官報公告を行ったり、債権者の調査を行ったりする必要があり、とても面倒で複雑な手続きがいるからです。

限定承認は、熟慮期間内に財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨の申述して行います。限定承認を行う場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。

               

③相続放棄

相続放棄を行うと、その相続に関しては、初めから相続人ではなかったものと看做されます。そのため、財産を相続できなくなりますが、代わりに負債を引き継ぐこともありません。なお、生命保険金等遺産に含まれない財産は、相続放棄をしても受け取れます(Q9参照)。相続放棄は、熟慮期間内に、家庭裁判所に対して、相続放棄をする旨の申述することにより行います。単純承認のところで説明したように、熟慮期間内に相続放棄の手続きを取らなかった場合や、相続人が被相続人の遺産の一部を処分したり隠匿した場合も、法律上単純承認したとみなされますので、注意が必要です。

           

④熟慮期間

単純承認、限定承認、相続放棄の選択を行うための期間です。何もしないで期間を過ぎると単純承認となります。熟慮期間は、自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。自分のために相続の開始があったことを知った時というのは、配偶者や子(第1順位の相続人)であれば、通常、被相続人が死亡したことを知った時になります。親や兄弟であれば、死亡の事実に加えて、先順位の相続人が相続放棄をしたことも知る必要があります。

熟慮期間は、家庭裁判所に請求することにより伸長してもらえる場合もあります。但し、常に認められるものではなく、期間を伸長する合理的理由があることが必要です。なお、被相続人と音信不通で、死亡したことは知っていたが、財産や負債があることを知らなかったので相続放棄を行っていなかったような場合には、例外的に熟慮期間が開始されない場合もあります(最高裁昭和59年4月27日判決)。あくまで例外であり、負債があることを知らなかった場合全てに適用されるものではありません。